『うつ病九段』 先崎 学 その1
うつ病九段
プロ棋士が将棋を失くした一年間
”(将棋が)弱くなりたくない” という思いを支えにうつ病から快復していく棋士、先崎学の話だ。
自分のうつ病との闘いと比べて一番異なる点は、”将棋”が指せるか、させないかで、筆者は快復を実感している点にある。
自分はもしかしたら快復してないのかもしれないが(現にいま、セロトニンを増やすという臨床データのある漢方薬を服薬しているし)、うつ病の前はこれができていて、うつ病になるとできなくなって、でも快復してきた今はまたできるようになった、というものがない。
うつ病になる前にやっていたこと、生活スタイルを、今もやりたいと思わなくなってしまった。
うつ病になるというのは、例えていうならば、自分を動かすための燃料タンクが小さくなることだ、と当時の担当医に言われた。確かにこれは納得のいくことで、病前15リットルだったタンクが病中は3リットルになり、快復した今8リットルになったくらいの感じがある。もうあんなに活動したくなし、あんなに活動するとまた病気になる気がして怖い。
病気になったらまた職場のみんなから腫れ物に触るような扱いを受け、うつの症状で人を信じられない、自分を責める、で気まずくなって退職、という大変辛いプロセスが待っている。もうこりごりだ。
タンクが小さくなるという暗示にかかっているのか、それとも本当にタンクが小さくなったのかわからないが、とにかくまたああなるのが怖い。
この本は回復するまでの過程が描かれているので、その後筆者がどのような生活を送ったかはわからない。でも筆者にはどうしても失いたくない、将棋があったのだ。
プロ棋士が将棋を失くした一年間 とあるように、一年間過ぎた後に、取り戻したのだ、将棋を。
この”筆者にとっての将棋”という存在は誰もが持ちうるものではないと思う。その点では、うつ病の人の快復の参考になる本ではない。
しかし、うつ病患者の心の中は、「そうそう、そうだよね〜」と頷けるようなことが書いてあるし、筆者の兄で精神科医の言葉も非常に役に立つ。